聖護院御伽草子
序品之二
2017.11.29 *Edit
一方、先に逃げていたウラは、川に面する崖の巨岩に登り、
しゃがみ込むように座っていた。
ウラの視線は自分が来た方角にじっと据えられていたが、
やがて待ち人到来の気配にその尻尾がはたりと振れる。
しゃがみ込むように座っていた。
ウラの視線は自分が来た方角にじっと据えられていたが、
やがて待ち人到来の気配にその尻尾がはたりと振れる。
「ウラ!」
「やっと来たツネ! 遅いぞ!」
「やっと来たじゃない! 危ないから止まれって何回言ったと思ってるの!
聞こえてないわけ無いでしょ!」
「聞こえてるに決まってるだろ! オレ耳いいし!」
「じゃあなんで止まらないのよ!」
「ツネが追いかけてくるからだろ!」

相手の身を案じて必死なツネに対し、
ウラは鬼遊びでもしている感覚なのか、
尻尾を振りながら楽しげに笑うばかりである。
「とにかく、そこは危ないから降りてきなさい。」
「大丈夫だって! こんな大きな岩が動くわけ……」
ウラの言葉はそこで詰まった。
彼の言葉がまるで合図になったかのように地面が崩れだすと、
座っていた巨岩が地鳴りとともに傾きはじめたのだ。
「あれ?」
「ウラ!」
「うわっ!」
ウラは俊敏な身のこなしで、隣の少し小さい岩に飛び移る。
「ふぅ……」
「だから、アレほど危ないって!」
「……だ〜いじょうぶだって! ほら、ここの岩なら……」
そう言い放ったものの、元から地盤の支えが弱かったのだろう。
飛び乗った岩も根元から倒れ始め、ウラはひとたまりもなく体勢を崩す。
「ウラ!」
「あっぶなっ!」
とっさに腕を伸ばしたツネとウラが、かろうじてお互いの手を取る。
力いっぱいウラの腕を引いたツネは、
勢い余って彼を抱きとめるようにしながら尻もちをついた。
二人が地面で座り込んでいる間に、
横倒しになった岩はその土台ごと一塊りとなって、
崖下の川へと勢い良く転がり落ちてゆく。
「ツネ! 大丈夫か?」
「大丈夫か? じゃない! アレほど危ないから注意しろって言ったのに!」
膝の上で心配そうに耳を垂らして見つめてくるウラに
怪我がないのを確認したツネは、ひとまず安堵する。
しかし一歩間違えれば、岩もろとも川へ落ちていたのだ。
その恐怖が一気に襲いかかり、ツネは大きな声でウラを叱りつけた。
「だって……岩が落ちるとか思わなかったし……」
「崖の、それも下が川になっている崖の岩なんて、
雨風に晒されて崩れやすいのは知っているでしょう!」
「大丈夫かと思ったんだ……」
「あのまま下に落ちてたら、怪我どころの話じゃすまないんだから!」
「うん……」
いくら無鉄砲なウラであっても、
流石に岩もろとも落ちかけたのには衝撃を受けたのだろう。
神妙に耳と尻尾を垂れて、ツネの説教を聞いていた。
恐怖と怒りから大きな声で叱っていたツネだったが、
悄気ているウラを見ているうち徐々に落ち着きを取り戻す。
ツネはウラを膝の上から下ろすと、
崖の方へゆっくりと近づいて岩の行方を覗き込んだ。
「跡形もない……途中で割れたのか、それとも川に流れたのかな……」
ツネの言葉に、ウラは黙って俯いたままだった。
(続く)
「やっと来たツネ! 遅いぞ!」
「やっと来たじゃない! 危ないから止まれって何回言ったと思ってるの!
聞こえてないわけ無いでしょ!」
「聞こえてるに決まってるだろ! オレ耳いいし!」
「じゃあなんで止まらないのよ!」
「ツネが追いかけてくるからだろ!」

相手の身を案じて必死なツネに対し、
ウラは鬼遊びでもしている感覚なのか、
尻尾を振りながら楽しげに笑うばかりである。
「とにかく、そこは危ないから降りてきなさい。」
「大丈夫だって! こんな大きな岩が動くわけ……」
ウラの言葉はそこで詰まった。
彼の言葉がまるで合図になったかのように地面が崩れだすと、
座っていた巨岩が地鳴りとともに傾きはじめたのだ。
「あれ?」
「ウラ!」
「うわっ!」
ウラは俊敏な身のこなしで、隣の少し小さい岩に飛び移る。
「ふぅ……」
「だから、アレほど危ないって!」
「……だ〜いじょうぶだって! ほら、ここの岩なら……」
そう言い放ったものの、元から地盤の支えが弱かったのだろう。
飛び乗った岩も根元から倒れ始め、ウラはひとたまりもなく体勢を崩す。
「ウラ!」
「あっぶなっ!」
とっさに腕を伸ばしたツネとウラが、かろうじてお互いの手を取る。
力いっぱいウラの腕を引いたツネは、
勢い余って彼を抱きとめるようにしながら尻もちをついた。
二人が地面で座り込んでいる間に、
横倒しになった岩はその土台ごと一塊りとなって、
崖下の川へと勢い良く転がり落ちてゆく。
「ツネ! 大丈夫か?」
「大丈夫か? じゃない! アレほど危ないから注意しろって言ったのに!」
膝の上で心配そうに耳を垂らして見つめてくるウラに
怪我がないのを確認したツネは、ひとまず安堵する。
しかし一歩間違えれば、岩もろとも川へ落ちていたのだ。
その恐怖が一気に襲いかかり、ツネは大きな声でウラを叱りつけた。
「だって……岩が落ちるとか思わなかったし……」
「崖の、それも下が川になっている崖の岩なんて、
雨風に晒されて崩れやすいのは知っているでしょう!」
「大丈夫かと思ったんだ……」
「あのまま下に落ちてたら、怪我どころの話じゃすまないんだから!」
「うん……」
いくら無鉄砲なウラであっても、
流石に岩もろとも落ちかけたのには衝撃を受けたのだろう。
神妙に耳と尻尾を垂れて、ツネの説教を聞いていた。
恐怖と怒りから大きな声で叱っていたツネだったが、
悄気ているウラを見ているうち徐々に落ち着きを取り戻す。
ツネはウラを膝の上から下ろすと、
崖の方へゆっくりと近づいて岩の行方を覗き込んだ。
「跡形もない……途中で割れたのか、それとも川に流れたのかな……」
ツネの言葉に、ウラは黙って俯いたままだった。
(続く)
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